Uehiro Future Scientists Program 研修生インタビューVol.1
―iPS細胞を使って古代人の進化や体質を探る―

研修

今年度より、当財団では、大学又は大学院に在学中の学生を対象としたキャリア形成支援制度「Uehiro Future Scientists Program」を開始しました。将来のキャリア形成の一助として、当財団の研究開発センターでiPS細胞の樹立・自動製造の研修(最長2か月間)を実施しています。

本プログラムの一人目の研修生は、東京大学大学院 理学系研究科 生物科学博士後期課程2年の中村友香さんです。大学院では、古代人の遺伝情報をもとにした人類学の研究に取り組んでいます。

「ヒトはなぜ進化を遂げてきたのか?生物の多様性はなぜ生まれたのか?ということに興味があり、大学院では、古代人の遺伝情報をもとにした人類学の研究をしています。縄文人や弥生人といった日本列島の古代人のDNA研究は、人々の暮らしぶりや移動の歴史を知るだけでなく、病気への耐性など体質に関する手がかりを得ることにもつながります。」

中村友香(ゆうか)さん
東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻
ゲノム人類学研究室
博士後期課程2年

iPS細胞は、再生医療への応用や創薬開発のツールとしてだけではなく、人類学の分野では古代人と現代人の遺伝情報の比較などで活用されています。

「古代人のDNAを調べると、様々な違いが見えてきます。例えば、縄文人のDNAはお酒に強く、弥生人のDNAはお酒に弱いことが分かっています。なぜお酒に”弱い”方のDNAも日本列島に広がっていったのか、遺伝情報の差はどのような理由で生じてくるのか。DNA情報だけでなく細胞レベルでより詳しく研究してみたいと考えるようになり、iPS細胞を使うという考えにたどり着きました。これまでiPS細胞を専門的に樹立し研究している方との接点がなく、どうにか技術を習得できないかと調べていく中で、このキャリア形成支援プログラムに出会い、参加させていただけることになりました。」

中村さんは、本プログラム参加中に当財団の研究開発センターに所属する職員から、基本的なiPS細胞の作製方法や培養方法を学び、自身が所属する大学院の研究室から持ってきた縄文人のDNA、弥生人のDNAを受け継いでいる現代人の体細胞からiPS細胞を作製しました。

「iPS細胞の専門家から直接指導してもらえる上、いつでも質問ができる毎日に感謝しています。細かなトラブルへの対処方など、独学では分からないこともたくさん教えていただきました。iPS細胞の樹立に必要な試薬は非常に高価であり、それを実際に使って実験できる機会自体も貴重だと感じています。自分の今後の研究に役立ちそうな別の実験にも取り組ませてもらえるなど柔軟性も高く、非常に充実した日々を過ごしています。」

今後、中村さんは、本プログラム参加中に作製したiPS細胞を大学院の研究室に持ち帰り、肝臓の一部の細胞に分化させ、古代人のアルコール分解能力など、様々な身体の働き調べていきたいとしています。

「今回、学んだことを今後一人で再現できるか少し不安はありますが、大学院の研究室では、iPS細胞から分化細胞を作製することに挑戦して、研究に活かしたいと思っています。」

当財団では、引き続き、「Uehiro Future Scientists Program」を通じて大学生・大学院生のキャリア形成を支援してまいります。