Uehiro Future Scientists Program 研修生インタビューVol.5
―脳の複雑な環境を正確に再現し、医薬品開発に貢献したい―

研修

今回ご紹介するのは、東京薬科大学 創薬基盤科学教室に所属する学部6年生の桑原綾平(りょうへい)さんです。桑原さんは、大学で「血液脳関門(けつえきのうかんもん)」の研究に取り組んでいます。

血液脳関門とは、血液中の有害な物質が脳に入り込まないようにする、人にもともと備わっている防御の仕組みです。そのおかげで私たちの脳は守られていますが、治療に必要な薬まで脳に届かないという課題もあります。桑原さんはこの課題に向き合い、「iPS細胞を使って人間の脳の複雑な環境をより正確に再現し、医薬品開発に貢献できる研究につなげる」ことを目指しています。

桑原綾平さん
東京薬科大学 薬学部
創薬基盤科学教室 学部6年

桑原さんは元々薬学に興味があり、高校の先生の出身校であった東京薬科大学に進学しました。その中でも「脳や神経に関わる病気の治療薬をつくる研究がしたい」という思いから、血液脳関門を研究している現在の研究室を選びました。

研究室では、脳の血管を構成する複数の細胞を組み合わせ、血液脳関門の性質を再現したモデルを作っています。桑原さんはそのモデルの改良を重ね、薬剤が脳に届くかどうかを評価できる仕組みづくりに挑戦しています。

そんな中で、細胞自体を研究したいと思い、3週間のプログラムに参加しました。「in vitro(培養環境下)モデルへの応用を目的としたiPS細胞研究は世界中で行われていますが、生体内の細胞特性を完全に模倣できているかと言えばそうではありません。iPS細胞の扱い方から脳の微小環境を再現できるオルガノイドについてまで知ることによって研究のヒントや着想が得られると思ました」と桑原さんは話します。

プログラム期間中に、まずiPS細胞から血管の細胞に分化させる実験を行いました。参考論文を読んだうえで、「どうすれば血液脳関門らしさのある細胞をつくることができるのか」を自分なりに考え、指導を担当した加藤智朗研究員とともに議論を重ねながら一つひとつ実験を進めていったと言います。さらに神経オルガノイドや血管オルガノイドの作製に取り組み、以前から興味のあった心筋細胞への分化にも挑戦するなど、短い期間ながら幅広い経験を積みました。

「3週間の研修期間は短すぎる!」と振り返る桑原さん。iPS細胞はこれまで扱ってきた細胞とは勝手が違い、実験前に可能だと思っていたことが、うまくいかないことも多くあったそうです。「もっとじっくりと学び、iPS細胞の奥深さやポテンシャルをさらに引き出せる研究をしたいなと思いました」

将来は、脳の病気に対する治療薬の開発に携わりたいと桑原さんは考えています。特に、まだ解明されていない中枢神経の仕組みに迫り、医薬品開発の基盤となる知見を生み出す研究者を目指しています。今回学んだ技術を活かし、より生体環境に近いモデルで研究を進めていくことが今後の目標です。

研究の合間には、初めての関西生活も楽しみました。休日には大阪市内の梅田スカイビルの空中庭園展望台に行ったり、海遊館でサメなどの海洋生物を観察したりしたそうです。


当財団では、引き続き、「Uehiro Future Scientists Program」を通じて大学生・大学院生のキャリア形成を支援してまいります。