サイアス株式会社とiPS細胞由来T細胞製造に関する基本合意をし、 my iPSの活用に向けた共同研究も開始しました
研究活動
公益財団法人京都大学 iPS細胞研究財団R(所在地:京都市左京区)は、サイアス株式会社(所在地:京都市左京区。以下「サイアス」という。)との間で、下記2件の契約を締結しました。
(1)サイアスによる自家再生T細胞の製造に関する基本合意
(2)自家再生T細胞の製造におけるmy iPSの活用に関する共同研究
(1) サイアスによる自家再生T細胞の製造に関する基本合意
当財団とサイアスは、サイアスが治験に用いる自家移植型iPS細胞由来細胞傷害性T細胞静注剤(以下「自家再生T細胞」という。)の製造委託に関する基本合意書を締結しました。委託期間は、2022年度後半に開始を予定している治験を目指し、2022年3月から2024年2月までを予定しています。今後、正式な委受託契約の締結に向けて、実務的な協議を進めていきます。
健康な人のからだでは、日々数千個のがん細胞が発生しており、免疫機能によってこれを死滅させていると言われています。何らかの理由で免疫機能がうまく働かなかったり、より多くのがん細胞が発生したりすると、がん細胞の異常増殖を防ぐことができず、疾病としてのがんになってしまいます。こうした免疫機能に着目し、人の持つ免疫機能を強化することでがんの治療を目指す「免疫療法」の研究が近年盛んに進められています。
T細胞は白血球の一種で、体内の異物を攻撃するなどの性質を持っており、免疫に関わっています。ところが、がんの患者さんのT細胞は、慢性的にがん細胞からの刺激を受け疲弊しており、がんを抑制する力が弱いと考えられています。京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の金子新教授らは、T細胞からiPS細胞を作製し、拡大培養した上でT細胞に分化させることによって、がんを抑制する力を取り戻し、若返ったT細胞を大量に製造する技術を開発しました。サイアスは、金子教授と連携してこの技術を活用し、患者さん自身のT細胞から作成する自家再生T細胞の実用化を進めています。
(2) 自家再生T細胞の製造におけるmy iPSの活用に関する共同研究
現在当財団では、患者さん自身の細胞から作製したiPS細胞、さらにはそこから作製した分化細胞を良心的な価格で届ける「my iPSプロジェクト」の2025年までの実現を目指しています。現在も患者さん自身の細胞から作製したiPS細胞を作製することは可能ですが、1回の製造につき約4,000万円の費用が必要となるのが現状です。このコストの課題を解決するため、細胞製造の自動化や検査の効率化で、安全で分化能の高いiPS細胞を1件100万円で提供することを目指しています。
本共同研究では、my iPSをサイアスの自家再生T細胞の原料として活用できるよう、製造方法の改善に関する検討を行います。具体的には、T細胞への分化のしやすさの異なる複数のiPS細胞を比較解析することで、T細胞分化に適した細胞株を選別することを可能とするためのバイオマーカーや性状解析の手法を探索することで、T細胞分化に適したmy iPSの製造方法の検討を行います。
当財団は、今後も産学と連携し、iPS細胞を用いた再生医療が一日も早く医療現場に提供されるよう、取り組んでいきます。