iPS財団™健常人由来の研究用iPS細胞 提供開始
研究活動
iPS財団™健常人由来の研究用iPS細胞 提供開始
ポイント
- 健康なドナーの血液から作製した研究用iPS細胞(健常人由来研究用iPS細胞)の提供を開始した。
- 提供時に提供先へかかる負担を最小限にすることを目的としている。
- 倫理審査は不要で、財団が定型約款でお示しする使用条件等での利用にご同意いただいた場合、依頼後、最短7営業日程度で提供が可能となる。
1.概要
公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団®(以下、iPS財団™)は、2023年2月6日より、健常(健康で疾患が無い)な人の血液から作製した研究用のiPS細胞「健常人由来研究用iPS細胞(CFiSシリーズ)」の提供を開始しました。
【提供株】
米国で検体採取され市販された日本人ドナー1名の血液からエピソーマルベクター(注1を用いて作製した5株。なお本株はHLA(注2ホモではありません。
【提供料】
企業等の営利機関には1本50,000円(税別)、大学等の非営利機関には無償。
【利 点】
- 品質の担保されたiPS細胞が低価格もしくは無償で入手可能。
- 最短7営業日程度で提供可能。
- 疾患の治療法開発や創薬研究等、様々な研究用途で使用可能。
- 財団がいただく提供料は、上記でお示しした提供費(+運送費用)のみ。本株を加工して研究用ツールとして製品化することも可能。
- 無償であれば、本株を第三者に提供することも可能。
※その他使用条件については 約款をご覧ください。
ドナー情報や提供株の詳細、提供の流れについては、こちらをご確認ください。
2.背景
iPS細胞の樹立成功が発表されて以降、徐々にiPS細胞を使った研究に取り組む研究者や機関が増え、研究の裾野が広がってきました。研究用iPS細胞が迅速に入手できるニーズも高まっていることを受けて、この度、「研究用マテリアル」として、新たに健常人由来研究用iPS細胞の提供を開始しました。
利点の一つとして、最短7営業日で提供可能である点が挙げられます。これまで国内で血液を採取・購入した場合、提供にかかる経済的な条件を定めるための契約締結や倫理審査が必要であり、通常1カ月以上を要することも多くありました。これらの課題を解決するため、今回、iPS細胞の元となる血液は海外で市販されているものを使用し、契約面も定型約款を用いることで、よりスムーズな研究用マテリアルの提供の流れを整えました。
事務的な手続きの削減、提供先への時間的負担軽減、良心的な価格での提供を重視し準備を進めました。
※倫理審査の必要性に関しては機関ごとに異なる可能性があります。
※提供にあたり、定型約款に基づく提供条件へのご承諾は必須となります。
iPS財団では現在、以下のiPS細胞株も提供しています。
- <iPS細胞ストックプロジェクト>
多くの日本人にとって拒絶反応を起こしにくい免疫型の組み合わせを持つ「HLAホモドナー」の血液から作製した、HLAホモiPS細胞ストック(注3 - <iPS細胞ストックプロジェクト>
上記1にゲノム編集を加えた、研究用の HLAゲノム編集iPS細胞ストック - <研究用マテリアル>
新型コロナウイルス感染症に罹患後回復した患者さんの血液から作製した 新型コロナウイルス感染症回復者由来iPS細胞
上記のほか、受託による細胞製造も行っています。
3.今後の展開
今回は1名のドナーからエピソーマルベクターを用いて作製した5株の提供を開始しました。同じドナーからセンダイウイルスベクター(注4を用いて作製した株も現在準備中で、年内には5~6株程度の提供を開始したいと考えています。
4.業務執行理事 高須直子 コメント
健常人由来研究用iPS細胞は、提供先ファーストの想いで提供準備を進めてきました。製造前の条件の確認や申請期間も含めると、財団発足当初から約2年間取り組んできたことになります。この取り組みがiPS細胞を用いた研究開発の促進につながり、最終的にはその成果が多くの患者さんに届くことを期待しています。
5.用語説明
注1)エピソーマルベクター
ベクターとは遺伝子の「運び手」のことで、プラスミド(環状のDNA)やウイルスがよく用いられています。エピソーマルベクターはプラスミドベクターの一種。非ウイルス性であり、導入先の遺伝子に組み込まれないと考えられています。
注2)HLA
ヒト白血球型抗原(Human Leukocyte Antigen; HLA)。ヒトの細胞で自己かそうではないかを見分ける目印のようなタンパク質の総称です。白血球以外にも様々な細胞で存在しており、組み合わせは数万通りにもなります。
注3)HLAホモiPS細胞ストック
HLA(ヒト白血球型抗原)型をホモ接合体(免疫拒絶反応が起きにくい組み合わせ)で持つ健康なドナーから製造した臨床用iPS細胞です。本細胞の製造・備蓄および外部への提供は、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)が国からのご支援を受けて2013年度から実施している「再生医療用iPS細胞ストックプロジェクト」の一環であり、当財団発足後、CiRAから当財団へ事業譲渡されています。現在当財団からiPS細胞ストックを研究機関・企業等の皆様に提供しています。
注4)センダイウイルスベクター
物質を細胞内に導入するためにウイルスを使う方法は、一般的に遺伝子導入の効率は高いものの、その細胞毒性やゲノム障害性に問題があると言われていました。センダイウイルスベクターは、標的細胞の核内に侵入せずゲノムに組み込まれないという特長を持っています。
お問い合わせ先
公益財団法人 京都大学iPS細胞研究財団(iPS財団)
企画推進室 広報グループ
TEL:080-2359-8495
E-mail:contact*cira-foundation.or.jp
(お手数をおかけしますが、*を@に変えてください)
引き続き、当財団では、他機関のiPS細胞を用いた研究開発をサポートするとともに、独自の研究開発にも尽力して参ります。