お知らせ日本から韓国への架け橋
臨床用iPS細胞ストック 海外へ初提供

2022.03.15
研究活動
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ポイント

  • 公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団®(所在地:京都市左京区、以下「CiRA_F」) は韓国の株式会社iPSバイオ(所在地:京畿道板橋(キョンギド パンギョ)、以下「iPSバイオ」)へ臨床用のiPS細胞ストックを提供した。
    CiRA_Fが臨床用のiPS細胞ストックを海外に提供するのは今回が初めて。
  • iPSバイオでは、今後数年間で、ハンチントン病、脳卒中、アルツハイマー病、がん免疫疾患を対象に、GMPグレードのiPS細胞製品を用いた臨床試験を実施する予定。
  • CiRA_Fは世界標準の高品質な再生医療用iPS細胞ストックの製造に一層努め、iPSバイオをはじめとする海外企業へのiPS細胞ストックの提供を通じて、iPS細胞技術の実用化に貢献し続けることを目指している。
  • CiRA_Fは、「最適なiPS細胞技術を、良心的な価格で提供する」という理念を掲げ、再生医療に必要なiPS細胞ストック、SOP(標準作業手順書)、品質評価等のサービスを提供する。

1.概要

 CiRA_Fで製造している、多くの日本人にとって免疫拒絶反応が起きにくい「HLAホモiPS細胞ストック」(以下、「iPS細胞ストック」)の臨床用株を、韓国のバイオベンチャー企業であるiPSバイオに提供しました。iPSバイオは、CiRA_FのiPS細胞ストックを用いて、数年のうちにハンチントン病、脳卒中、アルツハイマー病、がん免疫疾患の治療に向けた臨床試験を実施する予定です。
日本人と韓国人のHLAタイプは類似性が高く、CiRA_FのiPS細胞ストックを使用することで、韓国でも日本と同様に、免疫拒絶反応のリスク低減が期待されています。


2.背景

iPS細胞ストックプロジェクト

 iPS細胞ストックプロジェクトは、2013年に京都大学iPS細胞研究所(CiRA)において国家プロジェクトとして開始されました。2020年4月のCiRA_Fの活動開始に伴い、CiRA_Fに移管されています。本プロジェクトでは、HLA(ヒト白血球抗原)型を、ホモ接合体(免疫拒絶反応が起きにくい組み合わせ)で持つ健康な方(HLAホモドナー)からiPS細胞を作製して、細胞移植時の拒絶反応のリスクを抑えた治療を受けられる方を増やすことを目的としています。作製したiPS細胞ストックは、あらかじめ様々な品質評価を行った上で、各機関へ提供しています。


iPS細胞技術を用いた治療の普及へ向けて

  • iPS細胞ストックは、大学などの非営利機関には無償で、企業などの営利機関には1本10万円(税抜き ※臨床用の場合の価格)で提供しています。
  • CiRA_Fでは、作製したiPS細胞の「医薬品等への製品化」や「臨床研究や治験に用いること」について、あらかじめ血液提供者(ドナー)から同意を取得しています。
  • iPS細胞ストックの提供先機関から得られた知見は、可能な限りCiRA_Fを通じて他のiPS細胞ストック利用機関とも共有しています。

日本国内でのiPS細胞ストック臨床応用実績例

 CiRA_FのiPS細胞ストックを用いた臨床研究・治験の例として、神戸市立神戸アイセンター病院の加齢黄斑変性や、京都大学医学部附属病院のパーキンソン病を対象とした研究などがあります。


宋教授と当財団とのコラボレーション

  • 韓国のCHA(チャ)医科学大学とCiRA_Fは、研究用iPS細胞提供に際し、共同研究契約を、2021年4月14日に締結しました。iPS バイオのCEOでもある宋同大学教授は、ハンチントン病、アルツハイマー病、脳卒中などの神経変性疾患に対するiPS細胞を用いた治療法を開発することを目指し、CiRA_Fの提供した2種類のiPS細胞ストックを用いて、培養条件や神経細胞分化条件の最適化に関する研究を重ねてきました。
  • 上記の成果をもとに、iPSバイオは次のステップとして、GMPグレードのiPS細胞および関連製品の製造を行い、数年後にはハンチントン病などの神経変性疾患に対する臨床試験を実施する予定です。日本人と韓国人はHLA型の類似性が高いと言われていることから、同国ではCiRA_Fの提供する臨床用iPS細胞ストックの利用には有益性が見込まれています。2022年2月14日、iPSバイオとCiRA_Fは共同研究契約を締結しました。同年2月21日にCiRA_Fより臨床用iPS細胞ストック2種類を発送し、2月24日にiPSバイオへ到着しました。

3.共同研究について

  1. 研究課題名:
    Development of cell therapy for various neurological and immunological diseases using human iPS cells
    訳:ヒトiPS細胞を用いた多様な神経・免疫疾患に対する細胞治療法の開発
  2. 研究期間:
    2022年2月から2024年10月
  3. 研究担当者:
    CiRA_F
    細胞調製施設 施設長 高須直子
    製造部 部長 平就介
    品質部 部長 出口収平
    iPSバイオ
    CEO ソン・ジファン
    ディレクター・オブ・リサーチ ユ・ソンスク
    シニア・インベスティゲイター リー・ミジュ
    チームリーダー チョン・テヒ
    チームリーダー チュウ・ウォンビン

4.株式会社iPSバイオ CEO 宋知煥(ソン・ジファン)様からのコメント

 We are highly excited about this great opportunity of using CiRA_F's iPSC stock to develop stem cell therapies and clinical applications for intractable or incurable neurodegenerative diseases, such as Huntington's disease in the near future. For this, we really appreciate Prof. Shinya Yamanaka and CiRA Foundation's great support. We strongly believe that our concerted efforts will give rise to new hopes and novel therapies for currently incurable diseases, such as Huntington's disease in the next few years.

参考訳:CiRA_FのiPS細胞ストックを使用させていただけることは、近い将来、ハンチントン病などの難治性神経変性疾患に対する幹細胞治療の開発や臨床応用を進展させる絶好の機会であると期待しています。山中伸弥理事長とCiRA_Fの多大なるご支援に心より感謝しています。今後数年のうちに、ハンチントン病などの難治性疾患に対する新たな希望と治療法が生まれることを、強く信じています。


5.公益財団法人 京都大学iPS細胞研究財団 理事長 山中伸弥からのコメント

 大学の研究成果を実用化に向けて産業界へ橋渡しするため、様々な企業の皆様と協力関係を深めてまいりました。中でも、海外への臨床用iPS細胞ストックの提供は、私たちにとって新たな一歩だと思っております。当財団は縁の下の力持ちとして、iPS細胞技術の臨床応用に向けて、こうした取り組みを今後も進めていきたいと考えております。


6.公益財団法人 京都大学iPS細胞研究財団について

 CiRA_Fは、最適なiPS細胞技術を良心的な価格で届けることを理念として掲げ、国立大学法人京都大学がCiRAから一部の機能を分離して設立し、2020年4月に活動を開始した公益財団法人です。CiRAから継承した再生医療用iPS細胞ストックプロジェクトの推進をはじめ、iPS細胞を用いた製品の製造、品質評価、保管等の受託や、製造に関するSOP(標準作業手順書)の公開等に取り組み、再生医療の実用化に貢献します。


7.株式会社iPSバイオ について

 iPS Bio, a start-up stem cell company in Korea, was founded by Prof. Jihwan Song in 2019, in order to develop novel iPSC-based therapies for treating intractable neurodegenerative diseases, including Huntington's and Alzheimer's diseases, as well as stroke. iPS Bio is also developing novel drug screening platforms using neural cells differentiated from patient-derived iPSCs with various neurodegenerative diseases, including Alzheimer's, Huntington's and Parkinson's diseases.

参考訳:iPSバイオは、ハンチントン病やアルツハイマー病、脳卒中などの難治性神経変性疾患の治療に向けて、iPS細胞を用いた新規治療法を開発するため、2019年に宋知煥教授が設立した韓国のバイオベンチャー企業です。iPSバイオでは、アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病などの様々な神経変性疾患の患者由来iPS細胞から分化した神経細胞による、新規薬剤スクリーニング基盤も開発されています。


お問い合わせ先

iPS細胞ストックについて

公益財団法人 京都大学iPS細胞研究財団
広報室
TEL: 075-312-3378
Email: contact*cira-foundation.or.jp(お手数ですがメール送信の際 * を@に変えてください。)


iPSバイオの研究について

iPS Bio, Inc.(株式会社iPSバイオ)
CEO 宋知煥(ソン・ジファン)
*言語: 英語もしくは韓国語
TEL: +82-32-707-6733
Email: jsong5873*gmail.com (お手数ですがメール送信の際 * を@に変えてください。)


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