お知らせiPS細胞ストック 血小板減少症に対する企業治験の第一症例目に使用

2022.06.02
研究活動

ポイント

  • iPS細胞を使って、国内で初めて企業治験が行われた
  • この治験で、当財団のiPS細胞ストックが使用された
  • この治験は、血小板減少症の患者さんへの安定した医療提供への一歩となる

1.概要

当財団で製造・備蓄しているiPS細胞ストックが、血小板減少症の患者さんを対象とした治験に使用されました。この治験は、当財団(iPS財団)を含め、株式会社メガカリオン(注1)、京都大学医学部附属病院(以下、京大病院)、京都大学iPS細胞研究所(以下 CiRA)の4組織で連携して進めているものです。本プロジェクトでは当財団のiPS細胞ストック(注2)を使い、メガカリオンと当財団が共同で同種iPS細胞由来血小板製剤(以下MEG-002)を製造しています(iPS財団ニュース2020年6月22日)。 「MEG-002」の製造にあたっては、CiRAの江藤浩之教授等が発明した「ヒトiPS細胞から血小板を産生する技術」を用いています。この度、京大病院で実施された第一症例目の被験者への「MEG-002」投与が完了したことをお知らせいたします。

※治験詳細(医療関係者向け):京都大学医学部附属病院 血液内科 をご確認ください。


関係図


2.背景

血小板は、血液に含まれる成分の1つで、血管が損傷した場合に傷口で凝集し、出血を防ぐ機能を持ちます。なんらかの原因で血小板が減少すると、血小板の輸血が必要となる場合があり、現在はその供給を献血に頼っています。ところが献血由来の血小板では、まれに免疫反応等により使用できない例があり、また、血小板製剤の安定供給の観点からも、血小板を人工的に製造することは、医療の質の向上のため極めて重要です。 京大病院血液内科髙折晃史教授とCiRA江藤浩之教授のグループは、これまでに、患者さん自身の血液からiPS細胞を作り、それを血小板に分化させたものを使用し、臨床研究を実施してきました。(iPS財団ニュース2020年3月25日)それに続き、単一の製剤で多人数に輸血可能となるよう、当財団のiPS細胞ストックから作った血小板製剤(MEG-002)での治験の準備を進めてきました(iPS財団ニュース2021年4月26日)


3.当財団の役割

当財団が管理運営する細胞調製施設・FiTにおいて、株式会社メガカリオンで構築された製造方法を当財団職員が技術移転を受け、国によって定められている治験薬GMP管理下で血小板製剤の製造作業を担いました。また、製剤の品質評価方法についても技術移転を受けて分析を担当し、本製品を出荷しました。


4.治験概要

本治験では、血小板減少症の患者さんを対象に、「MEG-002」の安全性の確認と有効性の推定を行います。今後の実施は、京大病院血液内科をはじめとした複数の医療機関で予定しています。

治験詳細:京都大学医学部附属病院のプレスリリース
治験詳細(医療関係者向け):京都大学医学部附属病院 血液内科


用語説明

注1 株式会社メガカリオン

本社:京都府京都市下京区、代表取締役社長:赤松 健一
URL:http://www.megakaryon.com/
CiRA 江藤浩之教授等の発明によるヒト iPS 細胞から血小板を産生する技術の臨床応用を目指して2011年に設立。ヒトiPS細胞由来血小板製剤を工業的に大量生産することによって、世界の医療現場へヒトiPS細胞由来血小板製剤を供給することを目指している。



注2 iPS細胞ストック

HLA(ヒト白血球型抗原)型を、ホモ接合体(免疫拒絶反応が起きにくい組み合わせ)で持つ健康なドナーの血液からiPS細胞を作製し、品質の保証されたiPS細胞だけを保存したもの。国内外の医療機関や研究機関、企業等の求めに応じて迅速に提供している。



今後も、当財団では、iPS細胞を用いた再生医療の研究開発をサポートし、実用化に貢献してまいります。